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第141回「内モンゴル・クプチ砂漠での植林ボランティア」(第2回)

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先週は、愛知大学緑の協力隊<ポプラの森>植林ボランティア隊の隊長を勤められた、愛知大学副学長の砂山幸雄さんをゲストにお迎えして、その時の様子や意義をお伺いしました。
今週はその続きです。
ゲストとしてもうお1人、加わっていただきました。
学生として参加された(…といっても、社会人入学されているので、年齢は60代なんですが…)伊藤純規さんです。

ゲスト紹介
 本日のゲスト、砂山幸雄(すなやま ゆきお)さんは、1954年生まれ、石川県のご出身です。
1978年に東京大学教養学部をご卒業ののち、1981年に東京大学大学院社会学研究科修士課程を修了、東京大学社会学研究科博士課程、東京大学助手、愛知県立大学外国語学部助教授を経て、2003年4月に愛知大学現代中国学部教授に着任されました。
2009年から現代中国学部長、2011年に愛知大学教学担当副学長に就任され、現在に至っています。
ご専門は現代中国政治論や現代中国思想・文化研究です。


本日もうお一方のゲスト、伊藤純規さんは、1952年生まれ、岐阜県のご出身です。
社会人生活を経て、愛知大学現代中国学部に入学され、現在は4年生です。
今年初めて愛知大学緑の協力隊<ポプラの森>植林活動に参加されました。

伊藤さんは、クプチ砂漠での植林が終わった後、すぐ移動して、もう1ヶ所の植林活動に参加されたとか。どちらへ行かれたんですか。

伊藤
「中国山西省大同市です。
大同市は、内モンゴル省都フルホトから南東に約200KMのところにあり、黄土高原の北東部にあります。
また大同市は、4世紀末からほぼ1世紀、北魏の都が置かれた場所で、皆さんご存知の世界遺産に登録されている雲崗 石窟で有名な場所でもあります。
都があった当時は森林被覆率が50%程度で、その後、森林伐採、過剰な開墾・放牧により砂漠化が進んだと言われています。
ですから参加する前は緑の少ない砂漠化地帯を予想していましたが、恩格貝同様、緑化がかなり進んでいます。
「緑の地球ネットワーク」の参加者25名で、3箇所に土壌流出防止に効果があるヒノキ科のコノテガシラ、油松等を植樹しました。
この地域で緑化が成功している大きな理由は二つです。
一つは経済作物である杏子を植えることにより地域住民の収入を10倍(一万元)以上にし、貧困問題を改善し、結果として緑化を促したことです。
貧困であるうちはとても環境問題なんて考えられない。
この問題は地域住民と密接な関係にある訳です。
もう一つはNPO、住民、地元政府が緑化という目標に向かって相互協力し、努力していることです。
地域住民の生活が向上し、伐採禁止、放牧禁止規則を順守するようになり、植生が回復し、植林効果が増大するという好循環を生み出しています。」


伊藤さん、なかなかの強行軍だと思うんですが、なぜダブルヘッダーで植林活動をなさったんですか?

伊藤
「現在4年生で、卒論のテーマが「中国の砂漠化防止と緑化」であることです。
ツアー参加前に読んだ砂漠関連書籍の内容を砂漠化状況が違う2カ所で確認したかったからです。
愛知大学が推進している“現地体験”重視の姿勢を実践した形です。
私は社会人の時、36年間、海外営業マンとして、何度も中国を訪れ、中国が身近な存在となり、その結果、昨年(2013年)現代中国学部に編入しました。
来年、卒業後何らかの形で国際貢献活動をしたいと考えておりました折り、植樹ツアーのパンフレットを目にし、この二つのツアーに参加しました。」


砂山先生、中国の砂漠化の状況はかなり深刻のようですね。砂漠化が進んでいる場所で、植林活動は進んでいるんでしょうか。

砂山
「中国では1990年代後半には毎年3400?メートル、愛知県は5000?ちょっとですから、だいたい愛知県の3分の2くらいが毎年砂漠化しています。
(北京郊外の万里の長城の上から北のほうを見ると、荒涼とした大地が広がっていて、砂漠化がそこまで来ているなというのが、実感できます。)
最近は、少し少なくなったのかもしれませんが、依然として深刻です。
  これに対して、植林活動のほうもかなり大規模に行われていて、これは中央政府、地方政府とも力を入れています。
その結果、中国全体では森林被覆率(森林面積の土地面積に占める割合)は、30年前の12%くらいからした20%近くになりました。
しかし、砂漠化の進行はそれを上回る勢いで進行している、というのが現状のようです。
詳しいことはわかりませんが内モンゴルの状況も似たようなものではないでしょうか。
砂漠化の対策は、植林だけではなくて、そこに住む人をどうするのかという総合的な視点が重要だと言われています。」

伊藤さん、2つの砂漠での体験はいかがでしたか。

伊藤
「二つの沙漠で着々と緑化が進んでいますが、地域住民の、この問題に対する意識が低いと感じます。
今回恩格貝植樹ツアーで知り合った内モンゴル大学日本語学科大学院生と沙漠についてメール交流をしています。
彼女は、“中学と高校時代に地理の授業で沙漠化の深刻さを学ぶ一方、毎年内モンゴルで発生する砂嵐が吹くと文句を言う。
砂嵐の原因を考える人は少ない。“と言います。
また内モンゴルの案内書にも恩格貝(恩格貝生?旅游区)は海外からの植樹ツアー地域として紹介されているものの、“壮観な景観”、“珍しい砂漠植物、動物が観察出来る”等という全くの旅行志向です。
だからといって、ここで止めてはいけない。継続することが重要と考えます。」

砂山先生、中国の砂漠化が進めば、黄砂の飛来など日本への影響もあります。
砂漠化の進行を食い止めたり、植林活動で、日本が協力出来る事はこうした植林以外にもあるんでしょうか。

砂山
「現在、日本から中国に行って植林活動している団体は、遠山先生が始められ、私たちも参加している沙漠緑化実践協会以外にもたくさんあります。
おそらく、それらの多くは今後も続くでしょうけど、砂漠化防止の活動というのは、環境問題だけではなくて、食糧問題や、地域の発展、住民の生活の問題をも含み込んだ複合的な問題の解決でなければなりませんから、今後は中国政府、地元政府、さらにそこに住む人びとの主体的な活動という面が、ますます強まると思います。
そうなったときに、ただ木を植えるということだけではなくて、水の管理とか、農民を豊かにする農作物の開発とか、もっと高度な知識や技術の面で日本が協力できる余地が生まれるのではないかと思っています。
実際、日本の企業や大学、団体でさまざまな形での協力が始まっていると聞いています。」

伊藤さん、今回の体験を通じて、卒論のテーマはお決まりになりましたか。

伊藤
「現地住民のこの問題に対する意識についてです。
砂山先生が述べられたように恩格貝では緑化が着々と進んでいる。
また地域起こしも成功している。
遠山先生が90年代初めにこの地を訪問された時の住民はたったの数人であったが、現在では出稼ぎを含め2,000程の人が暮らしている。
しかしながら、住民参画がまだ少ないと思います。
今後現地住民との共同植樹、砂漠問題フォーラム開催等を通じて自立化、現地化を促すことが重要と考えます。」

砂山先生、今回の植林体験を通じて、どんなことをお考えになりましたか。

砂山
「私は沙漠に穴を掘りながら、なんのために日本人が中国にまで来てこんなことをしているんだろうかと時々考えました。
30年前に遠山先生が中国の沙漠を緑に変えようと思い立ったことも考えました。
おそらく最初は、日本人として中国のためにできることはないか、というのが動機ではなかったかと思います。
まだまだ発展がおくれていて貧しい中国の発展のため、あるいは日中友好のために植林する、という動機です。
でも、今はまったく状況が違います。中国は貧富の格差は大きいとはいえ、こんなに発展してしまいましたから、いまさら中国の発展のために日本人がボランティアで手を貸す必要性は、うんと低くなったと思います。
 今回、なかなか複雑な心境を覚えたことに、私たちが汗水垂らして沙漠を掘っている一方で、中国人の皆さんは、この「沙漠のオアシス」恩格貝に観光でいらっしゃるんですね。
遠山先生が始めた緑化事業のおかげで、恩格貝は中国でもよく知られた沙漠ツアーの観光地になっていて、観光客は230元を払うとこの地の施設を見学したり、体験したりできるんです。
ですから、「中国のために」、もうわざわざ私たちが中国までいって植林する必要はない、中国人自身がやればいい、とも言えると思います。もう一つ付け加えれば、恩格貝を直轄するオルドス市は、近年レアアースの採掘で急速に豊かになったところです。
あんまり豊かになりすぎて,逆に問題が生じたところでもあるのですが、ともかくそんな豊かなオルドス市ですから、恩格貝にはものすごく立派な沙漠科学館という博物館まで作りました。
そこで、じゃあ、もうやめればいいか、というとそれも違うと思います。
 なんのために植林するか、と考えると、それは自分のためじゃないかなあと思えてきました。
日本にいると、自然と人間との力関係というのは、地震とか、台風といった時に思い知らされるわけですけど、沙漠に行くと、ごく自然に、というか普通に、自然の力に向き合わされます。
沙漠の中でポツリと人間一人が置かれるのですから。そこで、さて、ここをどうやって緑に変えていくのか、と考えると絶望的な気持ちにもなりますが、遠山先生は人間の知恵を信じて、立ち向かわれたわけですね。
その気持ちを追体験しながら、作業をやっていると、なるほど自然の力は怖ろしいけれど、人類にはそれに立ち向かって克服していくだけの知恵と力があるはずだと思えてきます。
不思議な感覚ですけど、日本にいたら、なかなか得られない感覚じゃないかなと思います。
さきほど、自分のために植林すると申しましたが、もっと言えば、それは日本のためでもあるし、人類のためでもあるということにもなろうかと思います。
ですので、来年はぜひもっと多くの方々に愛知大学ポプラの森に参加していただきたいなと願っています」


伊藤さん、今回の活動で、一番印象に残ったことは何ですか。

伊藤
「水の重要さです。日本では蛇口をひねれば簡単に手に入る。
しかし今回訪問した乾燥地、半乾燥地では水は油以上に貴重なものです。
ある黄土高原の村では水を得るためにわざわざ往復1時間かけてリアカーにタンクを載せて、井戸に水を汲みに行きます。
井戸が枯れればその地を去らなければならない。
沙漠化地帯では地下水水位が下がって来ており、井戸を掘るのに莫大なお金が掛かり、とても低所得の農民が負担出来ない。水がいつでもふんだんにあります。
日本では考えられないことですが、こういった住民の生活も考慮して、この問題に取り組まなければならないと思いました。」




砂山先生、伊藤さん、植林ボランティア体験を通じた貴重なお話を、お聞きでき、最後には「高野さんも来年はぜひ参加してください!」とお誘いを受け、つい「はい」とお返事をしてしまいました!ホントに行けるんでしょうか・・。
でも、お二人のお話をお聞きしていたら、なんだか行ってみたくなったのは本当です。



来週は、愛知大学現代中国学部教授で学部長の安部悟さんをお迎えし、今月9月26日〜10月5日の予定で開催される「魯迅と日本の友人」と題した展覧会のお話をしていただきます。
どうぞお楽しみに。



「チャイナ・なう」パーソナリティー 高野史枝



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