中国の陶磁・陶芸界の状況は、日本にいてはなかなかわかりませんが、中国の大学―中国江西省景徳鎮市にある景徳鎮陶瓷学院で、客員教授として、陶芸を教えていらっしゃるという二十歩文雄さんから、貴重なお話をお聞きすることが出来ました。
(ゲスト紹介)
本日のゲスト、二十歩文雄(にじゅうぶ ふみお)さんは、1947年生まれ、大阪府のご出身です。
愛知県立瀬戸窯業(せと ようぎょう)高等学校デザイン科、大阪芸術大学芸術学部工芸学科陶芸専攻を卒業されています。
陶芸家として長くご活躍され、美濃陶芸展受賞2回、国際陶磁器フェスティバル入選など、受賞歴は数多く、個展も6度開いていらっしゃいます。
現在は中国江西省景徳鎮(こうせいしょうけいとくちん)市にある景徳鎮陶瓷学院(けいとくちん とうし がくいん)客員教授を務めていらっしゃいます。
景徳鎮というのは、昔から陶芸の街として有名な場所と聞きます。
「はい、中国の漢・唐の時代から陶芸の盛んな都市ですから、その歴史は1000年にもなります。陶器では、青花(日本でいう染付)粉彩(上絵付け)などが有名です。
そうした芸術品と同時に、家庭で使う陶器、工業製品なども多くつくられています」
「景徳鎮陶瓷学院」は、随分大きな学校らしいですね。
「陶瓷(陶磁)という名前を付けた大学は中国ではここ1つだけです(陶芸を教える専門校や大学は他にもある)ですから中国全土から受験生が集まってくるので、入学試験は大変な倍率です。窯元の子弟が来ていたりもします。
陶芸専攻だけでなく、陶磁器デザイン、環境陶芸など幅広い分野もありますから、人気が高いんでしょう。陶芸科の学生はおよそ4000人です。
教職員の数は多く、私の教員番号は1076番(笑)。
教授は200人で日本人は私一人ですので、注目度も高く、地元のマスコミによく取材を受けました」
具体的には、どんなことを教えていらっしゃいますか。
「手ろくろ、手作りなどの作陶と、陶芸史などの集中講義です。
ろくろはもちろん中国にもありますが、回転が日本や韓国とは反対まわりなんですね。
土練りの方法も中国と日本は違います。
私は両方できますが、その違いを具体的に学生に見せ、さまざまなやり方があることを学んでほしいと思って教えています」
そもそもどうして中国の学校で教える事になったんでしょうか。
「日本の陶芸専門学校で教えていた時、25年に渡って毎年学生たちを中国の陶磁器産地めぐりに連れて行っていました。
そのご縁で景徳鎮陶瓷学院とも交流があり、日本の学校で定年になった時、声をかけていただいて、それから教え始め、今年で6年目になります。
景徳鎮でもたくさんの卒業生を送り出しました」
卒業生の進路はどういうところですか。
「景徳鎮に残って陶芸作家を目指す人もありますが、陶芸関係の企業に勤める人も多いですよ。
景徳鎮には陶芸関係の企業が大中小あわせると4000社近くあって、デザイナーとか化学系、材料などの人材が必要で、引く手あまたです。
学校は創立100年を数えますから、そうした企業には先輩がたが多く働いていて、就職率は80%を維持しています」
それだけ陶磁器産業が盛んだという事は、今、中国では陶磁器が求められているという事でしょうか。
「中国は今、豊かになって来たので、中産階級以上の人たちは『人と同じ食器を使いたくない』『もう少し良い陶器を使いたい』という意識が高まって来ています。
それに以前の日本と同じように核家族化が進んできていますから、それぞれの家庭で独自のものが使いたいという気持ちがあるんでしょう。
現在、日本の陶芸技術は世界一。
この技術をもってすれば、中国には日本の陶芸家にも大きなチャンスがあるのではないかと思いますよ。
省都上海では、富裕層に高額な美術品がよく売れています。
日本が少し閉塞状況なので、陶芸や陶磁器産業に関わる方たちが中国でビジネスチャンスをみつけられる可能性がある…と、私は帰国するたびに講演会などで皆さんにお話しています。
日本と中国の交流にもなりますしね」
中国の陶芸界のレベルはいかがですか。
「日本と遜色ないレベルに達しているんではないでしょうか。
陶芸以外のファインセラミックなどの先端技術、建築ブームもあって、タイルなどの建築資材などの需要も多いですよ。
空港の近くにある工業団地には、100社の陶器関連会社があり、日本の会社も2社あります。
景徳鎮には、いま、観光客が押し寄せています。
土日は観光バスで工場に乗り付け、ご婦人方が陶器のまとめ買いをしていますし、ギャラリー街では20万から50万円の陶磁器が売れていくのを目の前で見ました。
私の作品も飾ってあり、お買い上げいただいたこともあります(笑)。
中国での指導ですか?70歳までをめどにしていますが、続けられる限りは続けたいと思っています」
中国で陶芸ブームがあるなんて、知りませんでした。富裕層が爆発的に増えている中国ですから、当然なのかもしれませんね。
中国で陶芸の指導を続けて、もう6年にもなる二十歩さんのお話は、とても興味深かったです。
来週は、「中国武術」の元選手で輝かしい成績をおさめられ、現在は指導者として活躍される原口昭教さんと、愛知大学武術の指導をされている大島秀文さんをお迎えする予定です。どうぞお楽しみに。
(「チャイナ・なう」パーソナリティー 高野史枝)